ぶらり、大山 〜大山の不思議と素敵を語る〜 大山開山1300年祭 特別コラム

[第34回]美しい曲線を描く弓ヶ浜半島の成り立ち

大山は登山シーズンを迎え、多くの登山客で賑わっています。大山の夏山登山道はほぼ直登で想定以上にハードではありますが、6合目付近までの“緑滴るブナの森”、8合目から山頂部にかけて登山道沿いの“濃緑のダイセンキャラボク群落”、さらに7合目付近から次第に開けてくる“眼下の素晴らしい眺望”は疲れを癒してくれます。これらは、大山ならではの“元気回復特効薬”かもしれませんね。

 

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(写真1:大山8合目付近から望む弓ヶ浜半島)


眼下に広がる風景の中で、もっとも印象的なカタチをした地形といえば弓ヶ浜半島。地元にとっては当たり前で、ことさら感じることはないかもしれませんが、遠方からの登山客はこの半島の美しい弓型(曲線美)に驚きます。実は日本最大の砂州(有名な砂州は天橋立)で、地理、地学などが好きなブラタモリ的マインドを持った人は“何故だろう?”と思うに違いありません。ですが、実はその理由を地元の多くの人が明確に答えることができません。残念ですね・・・。成り立ちについて積極的に著したガイドブックもないので、登山客はそれぞれが想像力を駆使されていることでしょう。

今回はその成り立ちを2つの疑問から紐解くことにトライします。
1)半島は砂のみで形成されていますが、あれだけの膨大な砂はどこから供給された?
2)美保湾側(東側)の海岸線はきれいな曲線を描いていますが、その理由は?

1)について、
鳥取県と言えば「砂丘」。鳥取県が行なう県のイメージ調査の結果には毎年驚かされますが、鳥取砂丘のイメージが約8割で、それ以外の観光地などは全て一桁の数%。「砂丘県」と名前を変えたほうがスッキリするのではと思ってしまうくらいです。実は県内の砂丘は鳥取砂丘だけでなく、県中部の北条砂丘も相当な広さであり、県西部の弓ヶ浜半島も砂だけで構成された砂丘半島です。砂の量も広さも鳥取砂丘を遥かに凌ぐものですが、農地や街として開発されたことで、今ではその面影も薄くなってきました。

 

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(写真2:鳥取県の砂丘)

※出典:「中国地方のデジタル標高地形図 鳥取県」(国土地理院、平成24年1月)(https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/degitalelevationmap_chugoku.html)をもとに筆者作成


この膨大な砂の多くは半島の付け根に河口のある日野川から供給されました。上流部の中国山地や大山から崩れてきた砂もありますが、たたら製鉄の砂鉄を採るため山を崩して鉄穴流しをした際の排砂(砂鉄はほんのわずかで、残りは川に流す)が半島の砂の供給源となりました。諸説あるようですが、その量は1億立方メートル以上とも云われ、想像を絶する規模でありました。古代より中国山地(特に日野川、斐伊川上流部)は日本を代表する鉄生産地で、江戸幕末期から明治初めに至ってはこのエリアで日本の鉄の8割以上を賄っていたということが背景であることは間違いありません。

 

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(写真3:錦に染まる中海 神話の舞台)


2)について、
日野川河口からどんどん供給される砂は、美保湾特有の時計まわりの湾流によって境港方面に流れていき、砂州を形成していきました。美保湾流は上図の通り、対馬海流が御来屋付近の岬にぶつかり、湾に回り込むことで発生したものです。その蓄積された砂は、この地域特有の強力な東(北東)風で西に飛ばされ、また同じく特有な西(北西)風で吹き返され、砂丘列を作っていきました。風が東西で強く吹くのは、美保湾、中海・宍道湖が島根半島と中国山地の山々に挟まれた地溝帯のような地形で、風が集束されて吹き抜けるためです。季節や気圧配置、台風などによっては“どん吹き”となり、かつては砂嵐が半島を覆うこともあったようです。江戸時代に弓ヶ浜半島を貫く米川用水路が造られるまでは、一部の海岸線を除いて人も住めない砂漠のような場所だったということです。日野川(源流地域から供給されるたたら製鉄による膨大な排砂)、そして海流(美保湾流)、東西の強力な集束風、これが半島の成り立ちのポイントです。

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(写真4:弓ヶ浜半島の弓型成り立ち)


弓ヶ浜半島の成立はイコールで中海の成立です。あたり前のことではありますが、これまで切り離して見ていたように思います。この独特な地形は古代より人々の暮らしを規定し、出雲神話の舞台にもなりました。前回ご紹介した「国引き神話」もこの弓ヶ浜半島の成り立ちの過程で神話にまとめられたものです。弓ヶ浜半島の美しい曲線美から地域のカタチ、歴史をひも解くアプローチは登山客や観光客を惹きつけることになるのではないかと思います。また半島によって閉ざされた、錦海と呼ばれる中海の夕焼け風景は大山信仰の重要な要素。西方極楽浄土の世界が中海、弓ヶ浜半島の先に広がっています。

 

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(写真5:白砂青松の弓ヶ浜サイクリングコース)


この弓ヶ浜の海岸線(海浜)に、サイクリングロードが整備されつつあります。道のタイトルは「白砂青松の弓ヶ浜サイクリングコース」。現在は一部(境港側5.8キロと米子・皆生温泉側7.5キロ)が開通しました。想像を超える素晴らしい絶景ロードで、心地よいサイクリングや散歩、ウオーキング、ジョギングが楽しめると話題になっています。来春には全線開通(境港・夢みなと公園~米子・皆生温泉)します。美しい弓形海浜のフィールドワークをしつつ、サイクリングやウオーキングをお楽しみください。
                                           (BUNAX) 

 

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