ぶらり、大山 〜大山の不思議と素敵を語る〜
[第26回]秘境的、大山 ~船上山と甲川~
大山は独立峰と認識されていますが、実は側山も多く、見る方向、場所によっては連峰と表現したくなるような風景に出くわすこともあります。確かに、弥山を中心に周囲には〇〇山、〇〇峰と呼ばれる山がいくつもあります。その中で、ひと際存在感のある山が琴浦町にある「船上山(せんじょうざん)」。標高は687mで決して高くはありませんが、一度見たら忘れることのできない印象的な山容をしています。屏風のように切り立った崖(高さ100m以上の断崖 ※屏風岩と呼ばれる)は柱状節理による溶岩壁が600mにも及び、見るものを圧倒します。約100万年前に形成されたとのことですが、自然の営みには心底驚かされます。
この要塞のような山は1200年前に山岳仏教の寺院が置かれ、修験道の霊場として栄えたということですが、頷けます。修験者はこの崖を登って、また見下ろして修行を重ねたことでしょう。歴史がくだった1333年には、隠岐島から脱出した後醍醐天皇がこの山に立てこもり、鎌倉幕府の追討軍と戦った合戦の舞台にもなりました。天皇が幕府軍を打ち破り「建武の新政」の礎となった歴史の山としても知られていますが、この独特な形状をした柱状節理の断崖を目の前にすると一瞬で納得してしまいます。
屏風岩の真下は狭いながらも県道が通っており、手軽に崖下ドライブを楽しむことができますが、この道はツール・ド・大山(大山一周のサイクリング大会)のコースの一部で、5月の大会の時にはサイクリストたちが息も絶え絶えに登っていきます。厳しい登りが続く苦しいところではありますが、それまでの森の中のコースに比べると展望も開け、気分もリフレッシュできます。雄大な風景は人を元気にする力も持っているようですね。
船上山の西側、甲川(きのえがわ)の上流部は大山山系でももっとも深い谷になっています。この渓谷は人の手が入っていない原生の谷で、大きな岩の塊が無数にころがって太古の雰囲気を残しています。川岸には崖が迫り、昼なお暗い険谷となっています。中にはこんな見事な柱状節理の崖も。この谷は日本百名谷にも選定されており、大山を代表する自然の原生風景のひとつではありますが、いわゆる観光地化も一切されておらず、知る人ぞ知る秘境地となっています。近年では夏のシャワークライミングの適地としてツアー等も企画されるようになりましたが、秘境は秘境のままそっとしておきたいとも思います。5月になると船上山も甲川も輝く緑(グリーンシャワー)に包まれます。屏風岩とのコントラスト、原生の険谷に流れる清冽な水とのコントラストは他で見ることはできません。連休でも混みあうことは一切ありません。原生の自然を満喫し、のんびりするには最高なエリアです。是非、お出かけください。
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